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徳島地方裁判所 平成元年(ワ)199号 判決

原告

武知博(X)

右訴訟代理人弁護士

浅田隆幸

小巻真二

被告

徳島県(Y)

右代表者知事

三木申三

右訴訟代理人弁護士

田中達也

"

事実及び理由

第三 争点に対する判断

一  本件工事の概要、経過など

1  本件工事は、被告が計画した大規模自転車道整備事業の一環として誠建設が被告から請負って施工したことは当事者間に争いがない。被告は専門業者に本件工事の設計を委託し、その業者は被告と協議のうえ工事方法も指定した工事設計図を作成し、誠建設は被告から渡された右工事設計図に基づき、本件工事を施工した。本件工事中、本件工事の施工状況を監督するため、被告の本件現場担当の技術主任が着工から竣工までの間、数十回にわたり、工事現場に赴いて工事経過等を視察監督した(〔証拠略〕)。

2  本件工事現場は両側を民有地に接する農業用排水路であった。本件工事では、先ず排水路の中に土を入れて全体を埋立て、次に土留用の幅約四〇センチメートル、長さ約三・三メートルの仮設鋼矢板の上部をバイブロハンマーで挟み、バイブロハンマーを上下に振動させながら、本件工事現場の両側一列に約三メートルの深さ埋込んだ。右矢板の埋込み箇所は、本件工事現場両側の民有地の塀や建物と近接し、原告方のブロック塀の直近であった。矢板を打込み終わった後、矢板の間を掘削し、その底にモンケンハンマーで松杭を約一メートル置きに矢板と並行に一列に打込み、その上に砕石を敷きならしたうえ、型枠を組み、コンクリートを流し込んで土台を作り、大型の四角いボックス型の排水路を組立ててから、土を入れて埋戻し、打設してある矢板をバイブロハンマーできつく挟んで振動させながら引抜き、最後に表面を舗装した。被告の工事設計図には、右矢板の打込み及び引抜きはバイブロハンマーによる旨、松杭の打込みについてはモンケンハンマーによる旨指示されていたが、誠建設は、隣家の塀と打込場所が近接しているためにバイブロハンマーで矢板を打込みにくいときは、ユンボのバケットで矢板を打込み、原告方付近でも右方法で矢板を打込んだ。右工事中、矢板や松杭の打込み時や矢板の引抜き時には振動や騒音が発生した。(前掲各証拠)

3  本件工事現場周辺には一〇軒位の民家があったが、原告以外にも六軒から本件工事によりブロック塀や地面に亀裂ができた等の苦情が誠建設に対してあり、誠建設はこれを補修した。(〔証拠略〕)

4  平成元年に被告が西日本調査設計株式会社に実施させた振動調査の結果によれば、川原でのバイブロハンマーによる矢板の打込み及び引抜きの場合、作業地点から約三メートル離れた地点で八〇デシベル前後、約一〇ないし二〇メートル離れた地点で七〇デシベル弱の振動が測定され、バックホーによる打込みでも右と大差はなかった。ところで、工事による振動が七五デシベルを超える場合は、建設工事に関連する振動規制により改善の対象となり、六五デシベル以上七五デシベル以下は気象庁震度階の軽震に当たり、環境庁による調査によれば七〇デシベルを超えると建付が狂うなどの被害感がみられる。(〔証拠略〕)

二  本件工事による被害(争点1)

原告は、本件工事により、原告不動産等に別紙損傷調査表記載のとおりの損傷が生じた旨主張するところ、右損傷調査表は原告の依頼を受けた松本智一級建築士(以下「松本建築士」という。)が昭和六三年六月四日に本件不動産等の家屋事後調査を行なった結果を記載した家屋事後調査成果報告書に基づくものであり(〔証拠略〕)、右報告書によれば、右調査当時原告不動産等には右損傷調査表記載のとおりの損傷が存在したことが認められる。

そこで、右各損傷と本件工事との因果関係について検討する。原告は右調査を依頼するに際して、松本建築士に対し、本件工事によって生じた損傷の調査をして欲しい旨依頼したが、松本建築士は本件工事によるものとよらないものとの区別はできないとして、原告不動産等に認められた損傷部分全部を調査、撮影したこと(〔証拠略〕)、右調査表で主として損傷が指摘されている別紙物件目録記載五の建物(以下「原告居宅」という。)は、昭和五五年に建築され(〔証拠略〕)、右調査時点で建築後約八年を経過しており、本件工事前にもクラック等の損傷が存在したものと考えられること及び右各損傷の内容からすれば、右損傷全部が本件工事により発生したとは認められない。

しかしながら、前記認定の本件工事の態様、原告方以外にも本件工事によりブロック塀等の損傷が生じたこと、振動調査の結果、本件工事現場と各損傷箇所との距離、本件工事中の昭和六二年一一月ころ、原告から被告の土木事務所の方へ本件工事により損傷が発生したとの被害の申告があったため、同月二四日ころ原告方へ赴いた被告の土木事務所の担当者と誠建設の専務取締役である藤枝一夫に対し、原告が本件工事によって被害を受けたとして数ヵ所を指摘した際に被告の担当者及び藤枝は本件工事との間の因果関係を争っていないこと(〔証拠略〕)並びに(〔証拠略〕)を総合すれば、次の損傷箇所は本件工事により発生した振動によって生じたと認めるのが相当である。(損傷の具体的内容は別紙損傷調査表の該当箇所のとおり。)

1  原告居宅 玄関の五か所のタイルはがれ

2  同 二階の便所のタイル目地落ち

3  同 一階、二階 和室の壁のクラック

4  同 屋上瓦のずれ、一部割れ

5  別紙物件目録記載六の建物(以下「倉庫」という。)一階 クラック

6  原告居宅西側回りの地盤沈下

7  本件工事現場に接している西側ブロック塀の道路側への傾斜、クラック

なお、本件工事による損傷は工事の振動によって発生したものと認められるので、工事現場から離れた地点では損傷が生じる可能性が小さいことや証人藤枝一夫の証言に照らし、右認定に反する証人松本智の証言及び原告本人尋問の結果は採用できず、他に、右認定以外の損傷が本件工事により生じたと認めるに足りる証拠はない。

また、原告は、本件工事中に誠建設に対して、「自転車道路建設工事によって起きた損害場所」と題し、原告が本件工事によって被害を受けたと考えた箇所を羅列した書面(〔証拠略〕)を交付し、その数日後、誠建設は右書面に誠建設の記名捺印をしたこと(〔証拠略〕)が認められるが、右書面では具体的な損傷箇所が不特定であるうえ、誠建設は右書面記載の個々の箇所と本件工事との因果関係を調査のうえ確認したものではないから(〔証拠略〕)、誠建設が原告に補修を約したかどうかはともかくとして、右書面を根拠に本件工事と右書面記載の損傷箇所との間の因果関係を認めることはできない。

三  被告の責任原因(争点2)

1  国家賠償法二条の適用について

原告は、道路工事が安全性を欠いていたために損害が生じた場合も国家賠償法二条が適用されるから、本件にも同法二条の適用がある旨主張する。ところで、道路工事により道路自体の本来有すべき性状の安全性を欠いた場合は同法二条に該当することは明らかである。しかし、道路工事そのものは営造物ではないから、道路工事が安全性を欠いていたとしても、道路自体の安全性とは無関係に損害が生じた場合には、国家賠償法二条が適用される余地はないと言うべきである。従って、本件のごとく、道路工事の際の振動等によって近隣に被害が生じた場合には同法二条は適用されないと解される。

2  民法七一六条の責任について

前記認定のとおり、本件工事は、原告所有地を含む民有地と接する土地上に、隣接の塀や民家の至近距離に矢板を一列に打込んだり、松杭を打設する工事であったから、被告は右工事による振動等の影響によって、周囲の民家の塀や建物等に被害を生じせしめる恐れのあることを容易に予測し得たはずである。従って、請負人である誠建設に対して工事設計図により工事方法を指示し、工事中の監督も実施していた被告としては、本件工事の設計段階で、本件工事による振動が近接する塀や建物等に及ぼす影響について十分調査検討したうえ被害の発生を防止する措置を講じ、また、工事途中でも被害発生の有無について注意を払い、被害が発生しないように監督すべき注意義務があるのに、右注意義務を尽くさず、原告に前記認定の被害を与えたものであるから、被告は民法七一六条但書により、原告が被った損害を賠償すべき義務がある。

証人園田勝雄は、本件工事現場は元農業用排水路であって、本件工事着工前に実施した地質調査の結果によっても地盤が軟弱であったから、バイブロハンマーやモンケンハンマーによって矢板や松杭が抵抗なく打込まれ、近隣に被害を与えないと判断した旨証言するが、本件工事現場付近の地盤が軟弱なことは認められる(〔証拠略〕)ものの、本件工事方法によって生じる振動について客観的な資料があったわけでもないのに慎重な検討することなく、安易に右のような判断をしたこと自体、過失を認めざるをえない。

なお、原告は本件工事現場は地盤が軟弱であるから、被告には地下水流動による地盤沈下を防ぐ工法を採るべき注意義務があった旨主張するが、前記のとおり原告土地の一部に若干地盤沈下が認められるものの、証人松本智は、これは振動による圧密沈下である旨証言しており、他に本件工事により地下水の流動による地盤沈下が生じたと認めるに足りる証拠はないから、右主張は理由がない。また、前記のとおり、誠建設は原告方付近で、ユンボのバケットで矢板を打込んだところ、原告は、ユンボのバケットによる打込みによって、バイブロハンマーによる打込みより大きな振動が発生した旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はなく、かえって、前記振動調査(〔証拠略〕)によれば、両者の間で、発生する振動について大差がないことが認められる。

四  損害額(争点3)

そこで、前記二認定の被害の損害額を算定する。原告が主張する損害額の根拠である松本建築士作成の設計書及び工事費総括表(〔証拠略〕)は、原告の納得する補修を前提として、ごく一部のタイルの欠落でもその部分のみにとどまらず、同一タイルを張ってある面全部を張替える費用を算定したり、数量計算が正確ではなかったり、単価計算の間違いや二重計上されている費用が認められ、信用性に乏しく採用できない。

従って、右損害の算定根拠としては、被告の実施した家屋調査成果報告書(〔証拠略〕)の見積書によることとする。右見積書によれば、前記二認定の損傷箇所の補修に要する費用は次のとおりである。(但し、6については右見積書に適切な記載がないので、証人藤枝一夫の証言により認定する。)

1  原告居宅 玄関の五か所のタイルはがれ 一四万七四二〇円

2  同 二階の便所のタイル目地落ち 七〇五九円

3  同 一階、二階 和室の壁のクラック

一階和室八帖壁塗替 三万〇二四三円

二階和室八帖壁塗替 一万九七九五円

4  同 屋上瓦のずれ、一部割れ 二万九六二三円

5  倉庫クラック 四五万二〇八七円

6  原告居宅西側回りの地盤沈下 六万五〇〇〇円

7  本件工事現場に接している西側ブロック塀の道路側への傾斜、クラック九か所 二五万〇四五八円

なお、原告は、右ブロック塀の補修に際して土留めコンクリート基礎もやり直すものとして、その費用及びそのための植木移植費も損害として主張するが、右土留めコンクリート基礎をやり直す必要性を認めるに足りる証拠はない。

8  諸経費として合計額の二七パーセント

以上によれば、本件工事により原告に生じた損害は合計一二七万二一三九円と認められる。

五  結論

よって、原告の請求は、一二七万二一三九円及び本件工事後である昭和六三年三月二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるから棄却する。

(裁判官 白石史子)

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